本講義の目的
本講義の目的は、一般社会の議論で扱われる論理の質を高めることです。一般社会に少しでもより洗練された論理が広まってほしいという想いからも来ています。
「隠れた論理」とは
AC間に因果関係はなく、AB間、BC間に因果関係があるとする。このとき、「AならばC」という事実に対するAB間やBC間の因果関係を「隠れた論理」と呼ぶ。
これだけでは分かりにくいので、例を用いて説明します。以下の例では、「隠れた論理が存在するなら」という前提の下、考え得る隠れた論理の内の一つを紹介しています。
例
「早起きな人の6割は、健康である」
これは、「早起き」自体が直接「健康」を導くのではない。隠れた論理が存在するなら、「早起きな人は、生活習慣が良い場合が多く」、「生活習慣が良いから、健康である」。「早起き」自体に健康作用がある訳ではなく、「早起き」によって、「早寝」が促進され、「生活習慣」が改善されるというような場合になる確率が高いから、この事実が成立している。
「なぜナビ大学に入った人の8割は、染色体がXXである」
これは非常に分かりやすい例である。「なぜナビ大学に入ることで、高い確率で染色体がXXになる」わけではない。そりゃ当たり前である。なぜナビ大学は入学するだけで性転換させられる大学ではない。隠れた論理を補うと、「なぜナビ大学に入学した人の8割は女性であり」、「女性は染色体がXXである」となるので、この事実が成立する。
「このサプリを飲んだ人は、平均して、平均寿命よりも5歳寿命が長い」
これは怪しい広告文言でも使われそうな巧妙な文である。隠れた論理が存在するなら、「このサプリを飲んだ人は、健康志向の人が多い為、生活習慣が平均よりも良い傾向にあり」、「生活習慣が平均よりも良い人は、平均寿命よりも寿命が長い可能性が高い」から、この事実が成立している。
「なぜナビ湾周辺の土地の購入者の多くは、2年以内に収入が1000万円増えている」
これも少し怪しげな匂いのする文である。隠れた論理が存在するなら、「この土地は高額で、この土地を買う余裕があるのは大富豪の中の上位層のみであり」、「この高額な土地を買えるだけの金銭を有する富豪は、相当なやり手で、平均して毎年800万の収入が増え続けている」ので、この事実が成立するのである。その為、「高確率で2年以内に収入を1000万円増やす」為の投資として、貧乏人がお金をかき集めてその土地を購入したとしても、収入には何の変化もない。
注意
先の例で、「隠れた論理が存在するなら」とわざわざ書いているのは、隠れた論理が存在しない場合もあるから。
例えば、サプリに本当に寿命を伸ばす成分が入っているとしたら、「サプリを飲むこと」と「平均寿命よりも寿命が長いこと」に因果関係が存在するので、「このサプリを飲んだ人は、平均して、平均寿命よりも5歳寿命が長い」には隠れた論理は存在しない。
また、隠れた論理は複数存在する場合もある。例において「隠れた論理が存在するなら~」のあとに示した「隠れた論理」以外にも考えられる論理はいくつもある。
日常への応用
普段の生活では、主に「Pは大抵Qになる」という表現に注意すれば良い。「Pは大抵Qになる」という表現から、「Qにならない為にPをしない」「Qになる為にPをする」というように派生するのは、必ずしも正しいとはいえないこと」に注意すれば良い。